台風

台風で死にそうな目にあったことがない。

そういう目に遭いたいと思わないが、経験がないために台風の恐ろしさが分かっていないかもしれない。

かつて私は、素晴らしい文章を書いていた。響く言葉を並べて、心地よくはき出していけば、私は詩人になれるはずだったが、そうはならなかった。私は少し疲れていて、時間は急ぎ足で過ぎていく。かつて合った様々なことを書くつもりでいた。私はまだ生きている。私には何も起こらない。

強大な台風が私の住む町を目指していると、私は緊張する。かつて私は、そういう躍動感を味わったことがある。観測史上最強の台風が町を目指している。早く来いと思う。この数十年の間に、誰かが組み立てた全ての下らないものが崩壊するだろう。台風は、世の中を下らないものと残るべきもの、二つにグループ分けしてくれる。誰かが積み上げたインチキが崩れ去る。

そういうことを緊張感を持って想像した。