蕎麦屋のライディングテクニック

職場からの帰り道。交差点を赤信号で止まっていると、交差する道路右側から一台のバイクが交差点に入ってきて、大きく車体を右に傾けて右折していった。信号が変わり私の側が青になって走っていくとやがてそのバイクに追いついた。そば屋の出前のジャイロキャノピーだった。ジャイロは三輪のスクーターである。原動機付き自転車に分類される。後輪が二輪、シートを含むフレームの前半部分は駆動輪部分と繋がっているが車体を大きく倒し込むことが可能な構造である。
不思議な乗り物だ。後輪は二輪なのでバンクせずに曲がる。遠心力によりロールするはずである。ロールに堪えるためにライダーは車体の前半分とライダー自身の体をイン側に倒し込む。出前の岡持は車体の後ろだが、構造上は前半部分と一体になっており、イン側に倒し込まれる。岡持がイン側に倒れ込むから蕎麦つゆがこぼれてしまいそうだが、遠心力と重力のバランスが取れるので、恐らくはこぼれないはずだ。一見フラットに見える後輪部分の方が、ロールする際に大きな遠心力が掛かるから、全部こぼれてしまうはず。実はそば屋の出前には三輪バイクは向いていない。ジャイロのライダーは、力学的にはサイドカーパッセンジャーと同じ立場である。
三輪のメリットは、停車時に脚を出したりスタンドを掛ける必要がないことだけだろうと思う。蕎麦をこぼさずに少しでも速く客に届けると言う目的には、普通の二輪が向いている。
出前ライダーは恐らくそれを理解した上で、車体を倒し込みつつカーブを切っていたのだろう。