音楽にお金を払う

私は数百枚の音楽用CDをもっている。その半分以上は結婚する前に手に入れたもの。結婚後、引っ越しにともなってかなり処分した。私が学生の頃、LPレコードとFMラジオが主流だった。ステレオはでかかったし、音楽を聴くにはいろいろと手間がかかった。実際にLPレコードはでかくて重たい。傷が付きやすい。メディアとして余り良いところがない。音楽用CDプレーヤーを買ったのは大学を出た年だ。学生だったし、LPレコードは高嶺の花だった。余りもっていなかった。作るのも、売るのも結構なコストがかかったのだろう。

誰かの新しいアルバムは3000円。当時からその値段だった。レコーディングスタジオを借りて、ミュージシャンを集めてエンジニアを雇って、録音してカッティングしてプレスして、ケースに収めて、店に運んで陳列して売る。売れ残ったら回収する。

音楽をユーザーの元に届けるのは、ずいぶん手間とコストがかかる。そのために一枚ごとに3000円のコストを負担する。

デジタル録音となり、音が良くなったというのだが、私はそうは思わない、手間は減った。ノイズも減った。それが必ずしも音がよいという話にはならない。円盤のサイズが30センチから12センチになって、再生装置も手軽な小さなものになった。音が良くなったとは思わない。みんな騙されている。信号がデジタルだろうが、アナログだろうが、結局はアナログになってスピーカーの紙を揺する。それが音になって私の耳朶に反射し、外耳道を通して鼓膜を振動させる。音のリアリティなど、ちんけなイヤホンで評価できるはずはない。世界最高画質のハイビジョンテレビのコマーシャルは、何の変哲もないテレビ受像器でみても、やっぱりなんかよく見える。

つづく。