ジョガー

私はかつてライダーで、この頃またライダーに復帰した。

私はかつてマラソンランナーで、ジョガーと言うべきかもしれないが、この頃またジョガーになった。

末っ子がもうじき小学校に入学する。長女は既に中学生だ。少し手が掛からなくなった。少なくとも、父親の出番はかなり減った。それで、私はライダー、そしてジョガーに復帰した。

ライダーの方は、職場への通勤に使っているから、育児云々とは余り関係がない。以前の職場は官舎からごく近かったから、通勤に気を遣う必要がなかった。公務員を辞めて、西宮に引っ越してきてライダーになった。職場まではバイクで片道10分ほど。それを普段は一日に2往復する。

朝、出かけて、晩飯時に帰宅して、家族と夕食を供にして、三女と長男を風呂に入れて、そして職場に戻る。そういう生活を、私は今まで10年余り続けてきた。結婚以来、長女が生まれて以来、私は職場と家を2往復する生活を続けてきた。

楽じゃないよ。

遊んでいる場合ではないのだ。三度の飯を食うように、ジョギングをする、と云うのが私のポリシーであったはずだ。しかし、ジョギングさえしている場合ではなかった。今は昼休みにちょっと走って居るけれども、そんなことしている暇があったら、家に帰って子どもたちの相手をしよう、という気分だった。多分に精神的な問題で、ジョギングをしないからと云って、その分早く家に帰ったりはしない。しかし、私はジョギングを封印した。妻に対する気持ちが私にそうさせた。

昨年春、ちょっとしたきっかけがあり、喫煙を止めてジョギングを再開した。衣装ケースに入っていたジャージのジッパーがさび付いて動かなくなっていた。まぁ、着るものはどうだってよい。ハダカじゃなければ走れるさ。

そのうちに、何かモダンなジョギングウエアを買うことにしよう。とりあえず用意したのは帽子とジョギングシューズだ。

かつてジョガーだった私は、靴を丁寧に扱う。踵を踏みつけるようなことは決してしない。大変よい姿勢で走るから、靴の底はきれいに、均等にすり減る。もうこれ以上無理、というところまで靴をきれいにはきつぶす。そういう自信があるから、靴をとりあえず買って貰った。

世間は東京マラソンの話題でもちきりだ。もっとやりようがあったと思う。スタートとゴールの位置関係が逆だろう。やるなら東京都庁前ゴールだ。ゴールにたどり着いただれもが、ヒーロー・ヒロインとして迎えられるべきだ。臨海副都心にどれほど大勢の観衆が待ちかまえていたのか知らない。やるならレインボーブリッジスタート。都庁前ゴールだ。私はこのレースに余り興味がない。

ジョギングにはどうも目標が必要らしい。再会しておおよそ一年近くになろうとしているが、私は何の目標も持たずに走り続けている。私にとって、昼休みのひとときは、瞑想の時間だ。帽子を被り、少し厚着をして、汗をかきつつ、心を落ち着けて、セルフコントロールして、気持ちを整理しながら走る。

いろいろなことを思いつくのだが、ほとんどすぐに忘れてしまう。いろいろな物を観察し、想像し、考察する。残念ながら、それらを記録する術がない。